388-2 妻が病みわれ老いたればいづくにも手を組みてゆく恩寵として [文芸(短歌・俳句) 時事]
随想コラム「目を光らせて」NO.388-2「朝日歌壇・俳壇から」
歌壇 期間:2018.6.17.~6.24
妻が病みわれ老いたればいづくにも
手を組みてゆく恩寵として*
*題 目: 朝日新聞:2018.6.10
(浜松市)松井 恵さんの入選作。
アオウ ヒコ
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水彩画家 酒井 健 の作品から 2-18061 「 牡丹」
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朝日歌壇 2018.6.17
★スポーツも政治も子どもに見せられぬこの国に切る
蜥蜴の尻尾
(青森市) 森 純一
★今もまだ不正の有無の審議中もう大学が出来てる不思議
(近江八幡市) 森谷弘志
★国会の空費されいし一年に藤井四段は七段となる
(水戸市) 中原千絵子
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ゲノムから復顔された縄文人父方の伯母そっくりだった
(渋川市)木暮陶歌人
かつて、人類にとって不思議でならなかったのは、生物固有の種が次世代
にどのように顕現移行するのか、いわゆる遺伝情報の仕組みと伝わり方につ
いての知識が得られなかったことであった。小学生の読本には色違いの朝顔
を掛け合わせて出来た種を翌夏植えて咲いた花の色の発現をもとにして得ら
れた「メンデルの法則」以上のものを得ることができなかった。この解明はおそ
らく出来まい、と多くの人は諦めていた。
だが、偉い人物も出たものだ。DNA(デオキシリボ核酸)が遺伝の鍵を握っ
ていることが分かり、DNAの構造を巡る遺伝物質の分析によって、ゲノム分析
に日が当たり、その生物の進化経路の追及が可能になった。その一例として、
「人間のDNAはチンパンジーやボノボ(ピグミー・チンパンジー)のDNAと98.
8%が一致することが明らかになった。ゲノム復顔の縄文人の顔が父方の伯母
さんそっくりだったとしても、取り立てて驚くことはない。貴方もそっくりだわね。
九十歳のベーター叔父さん今日もまた自慢料理で我等
を待てり
(ドイツ) ハルツォーク洋子
ドイツの居宅の近くに夫の親類筋のベータ叔父さんが住む。料理が自慢で、
家に来い来いと会うたびに言う。日本人の家族との交流をことのほか楽しみに
している。招かれるのは楽しみだし、その料理も確かにおいしい。
幸せなドイツの洋子さんの近況。
朝日歌壇 2018.6.24
日光の湯の湖に入りて釣る人の湖心に向いて一心に立つ
(熊谷市) 内野 修
渓流釣りを趣味とする釣り人が居る。日光の湯の湖に立ち入り、湖心に向け
てただ一人、竿を出している。鱒の類を狙っているのか。静かないのちのやり
取りを尽している。
栃ノ心の気力体力白鵬を勝りて座布団宙を舞ふなり
(五所河原市) 千葉育子
急に力を付けて人気も急上昇の力士、栃ノ心。真正面から当り、左差しが決
まれば、後は前に出るだけ。勝ちが約束されている。この場面は横綱白鵬
とのがっぷりの力比べの様相を呈したが、栃ノ心の力が勝り白鵬を寄り
切った。途端に座布団が宙を舞いました。直ぐに張り手を見舞う横綱の負
けは、鬱憤晴らしの座布団投げにつながったようでした。
おおまかで能天気なる妻がいて肉じゃがの味
みくじのごとし
(茅ヶ崎市) 大川哲雄
わがマグサイサイならぬ細君はおおまかにして能天気、お作り召される肉じ
ゃがの味に至っては、その時々の天気を映して定かならず、みくじのように当
り外れが定かならずでありまする。
公園の草分けて立つデゴイチはさびしすぎるよ帰りたからむ
( 長野県) 沓掛喜久男
国鉄の廃棄デゴイチ頒布係員の口車に乗せられて、「このあたりに置けば、
絶好です。子供さんに連れられて大勢大人も来ますよ」だったが、今は夏草
が生えるだけ。こんなところに置き去りにされてさぞやデゴイチ君帰りたかろう、
あの賑やかな都会の路線へ戻りたい。
★きっぱりと「総理も議員も辞めますよ」あの発言がそもそもの因
(前橋市) 松浦 蔚
★改竄も隠蔽もして咎めなし木下闇に思ふ自殺せし人
(前橋市) 荻原葉月
★潔く観念せいという言葉このごろ通じぬ世の中となる
(東京都) 野上 卓
肩書のどれもがとれてふるさとの沼のひとりの鮒釣りとなる
(館林市) 阿部芳夫
ひっそりとただ一人沼に出て竿を出しヘラブナを狙っている。幾重に
も重なり肩を圧していた肩書の数々が今はなく、男一匹鮒釣りとなる。
時鳥ひねもす鳴いて教室の窓は全開十二の瞳
(霧島市)秋野三歩
ホトトギスの啼き音が一日中聞こえて、教室の窓は開け放し、そこで
6人の生徒が瞳を輝かしている。
馬鈴薯の白い花咲けど畑にはモンシロチョウのいない
静けさ (備前市)山形芳子
キャベツ畑には卵を産み付けるためにモンシロチョウが寄り集まって
いるのが普通だ。だが、白い花が咲いた馬鈴薯畑にはその姿はない。
この下にはハンサムな男爵さんがいるのよねえ、と誘っても言っても
モンシロは見向きもしない。
収穫の蚕豆を肴に酌む夜は迷いなどなし辛口と決む
(舞鶴市) 吉富憲治
蚕豆がみるみる肥えて収穫期になった。今夜はこのそら豆を薄塩で
煮た肴で酒を飲もう。合うのはもちろん辛口の日本酒だ。
田に水を引くと蛍もついて来て今年の稲はこっちが甘い
(山陽小野田市) 秦 一憲
そんなこともあるのか。掻いた代に水を引くとき連れに蛍がやってき
た。さあ、歌うぞ、ほうたる来い来い、蛍が来れば、こちらの水は甘い
ぞ、今年の稲はこっちが甘いぞ、と。
(2018.7.15)
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