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389-2 いっぽんの大樹いっぱいの栗の花* [文芸(短歌・俳句) 時事]


  随想コラム「目を光らせて」NO.389-2「朝日俳壇から」


 


   俳 期間2018.6.17~6.27


 



   いっぽんの大樹いっぱいの栗の花


 


 


                       題 目: 朝日新聞2018.6.17 


         (江南市)川口治水さんの入選作。


                アオウ ヒコ


                  


             


3-170630紫陽花本土寺.JPG



  水彩画家 酒井 健の作品から 3-170630 [紫陽花  本土寺]



           

   朝日俳壇 201.17  


02-DSC_0911.JPG

                                         


    睡蓮の水を平らにして咲けり


 


           (東かがわ市)桑島正樹         


 睡蓮は家庭の庭では池や大ぶりの甕などに浮かべて、一輪か二輪を大


切に育てているのをよく見かける。一方、公園や湖、河川の水辺で群生


しているのもよくみかける。此処では見ごろには花が一斉に開き、水


を被った緑の葉の成長もあって、水面のほとんどは隠されてしまって


る。多少の風があっても、水面に漣が立つこともなく、そこで咲く睡


がゆらゆらと揺れることもない。見た目には「睡蓮は自らを支え、浮


べてくれる水を平らにした状態で花開くのだ」と感じさせる。


  父の日の父欲しき日もありしかな


               (大阪市)今井文雄


 自らも成長して独立し、父の庇護から離れて幾久しい。父母との交流


 


が途絶えないようにと、母の日、父の日の公的祝祭日が設けられてもい


 


る。ここでは父君は既に亡くなられているようだ。つらつら思うに、父


 


の日が来るたびに、あゝ、生きておいでだったら、なにかと謦咳に接す


 


る有用な機会が何度かはあったであろうにと、惜しみ、懐かしむことで


 


ある。


 


   まだ着られさうに脱がれし蛇の衣


 


             (富津市)三枝かずを


 


 さぞかし、美しい蛇の抜け殻だったようだ。拾った人は思う。蛇さん


まだ着られそうじゃないか。うち捨て去るなんて惜しいし、


体ない。私がそっくり戴きますよ。昔から、蛇の抜け殻を財布に入れて


おけばお金が貯まると言われている。この抜け殻を丁寧に折り畳んで入


れとけば、封きり前の札束に巡り合うことにならんとも限らない。


 オイ、折り畳んで財布に入れるところを、だれかに見られてはいない


だろうな。


11-DSC_0872.JPG


   我よりも背高き妻の更衣  (芦屋市)瀬戸幹三


「今日、私は衣更えをしますからね、観てて頂戴よ」と妻は高らかに宣


言して、さっさと自から着付けに入った。鏡を前にした着付け人形は黙        


々と夏衣への変更を進める。背筋を伸ばし、終りの頃には襟元をピンと


伸ばし婉然たる笑みを見せれば、更衣の儀は終了である。妻は私よりも


背が高い。「並んで鏡に映ってみない?」と背高女はここで艶然とした


笑顔を見せる。「もしもピアノが弾けたなら」という歌がある。この時


私は「もしも背丈が妻より高ければ」という歌を絶唱したい気持ちに駆


られる。


   川靄の流れ蛍火流れ初む


 


           (鹿児島市)青野迦葉


  


 蛍にも初光を灯すきっかけがあろう。例えば、恋敵の初灯火なぞ、最


 


もそれらしいきっかけのように想えるが、現実には闇に流れ出す川靄の


 


流れがそれのようである。川靄に含まれる湿り気が蛍の発光素ルシフェ


 


リンと遭遇しての展開のようである。といっても夜空の宙空に舞う蛍同


 


志の同時明滅を支配する因子はなにか? 蛍は偉大なり。闇の川靄の流


 


れに恋人たちを誘い、蛍の明滅に合わせて恋を成就させるなど、神業と


 


しか思えない。


 


   いっぽんの大樹いっぱいの栗の花 


               (江南市)川口治水


 庭木の一つに栗の木をお持ちの方、6月の初頭に花を付けるの芳香に


肩を竦める思いをなさっているのではあるまいか。耐えきれぬほどの男


の香り。同じ空気を吸う異性の思いを訊き質す機会も見いだせず、旬の


過ぎるを待つのではなかったか。今春、春の「山歩会」の帰りに入間川


の河原を歩いた折、中州の中で、この句と全く同じ光景に出合った。


も訪れずの中州にただ一本の栗の大樹の開花に遭遇したのだ。「おう


マロンの果てしなき芳香よ!」と、なぜかその大樹の下に駆けけたい


とする衝動に駆られた。だが、実りの秋に再会するのもいいな、と考え


直したことだった。


   郭公の郷に老いけり志


 


               (男鹿市)三浦善隆


 


 私の住まいは朝夕郭公の啼き音が聞こえる郷である。若い時から或る


 


志を抱いて努力してきたが、捗々しい結果を生まずであった。このまま


        


ここで老いてゆくのだろう。悪くはない郷だ。


 


 


  


          朝日俳壇 2018.6.24


     


12-DSC_0858.JPG


 


    父の日や我が仕種ふと父の影


                 (神戸市)岸田 健


 


「父のDNAがちゃんと伝わっているようだな」である。私の仕種の端 


       


々に今は亡き父のそれが垣間見える気がするのだ。私自身もそれに気付


 


ているこの頃、改めて父が息子に遺した資質を問うている。


 


 


    あと戻り出来ぬ人生かたつむり


                 (奈良市)田村英一


 


 確かに蝸牛が後戻りするのを見たことはない。道を選び、前に進むの


        


だから、後戻りが必要になるケースはありうる。何らかの方法でUター


        


ンしているのかもしれない。絶対的にそれはない、ということであれば、


 


前に進む速度を緩くするための情報の収集が、あの頭上の2本の触覚に


        


よって行なわれているのか。一旦決められた人生は後戻りができないよ、


       


とかたつむりを例にしたことだが、中には親切な小父さんがヒョイとつ


 


まんで、別の道に置いてくれるかもしれない。でも、この道もまっすぐ


        


に歩むことは前と変わらない。


 


 


   雨の我が路地漂流や明易き


 


               (船橋市)斉木直哉


 


 私が陰鬱な雨降りに閉ざされた路地から路地へと渡り歩く自分の漂流


       


を考えていると、いつの間にか夜が白々と明けてくる。


 


 


   国境京奈良かけて田植かな 


               (京都府精華町)土佐弘二


 


 この句は(クニザカイ・キョウ・ナラ)と読みましょう。田植する場


        


所がちょうど京都と奈良双方に跨る場所にあるようです。こんな面白い


        


場所にある水田での田植えです。おもしろいでしょ!と。


 


 


23-DSC_0124-001.JPG


 


   尺蠖しやくとり)の尺とりそこね立ち上がる


  


          (神奈川県寒川町)石原美枝子


 


 尺取り虫を難しく書くと尺蠖になります。この字をIMEパットで探


 


と結構時間がかかる。読者は無尽蔵な時間を持っているわけでない


 


ので易しい漢字や表記があればこれを使うに越したことはない。


 


 さて、尺取り虫が確かな歩みを途中で中断して立ち上がるのは尺を取


 


り損ねたからか、ほかに理由があるのかわかりません。しかし、面白い


 


行動を能く観察して句にして立ち上げるのはなかなかに素晴らしい。


 


 


   父の日を父は知らざり戦闘帽


 


            (海老名市)山内美津子


  


   橋潜ることも覚えて燕の子 


            (大阪市)田中靖子


 


 昔、飛燕(ヒエン)という戦闘機があり、性能もよかったのか人気


 


あった。今年孵った燕の仔も、いつしか飛燕の子としてスピードも増し


 


 、すでに橋の下の空間を潜り抜けることも覚えた。初夏の風物を代表す


 


る若き燕君に乾杯しましょう。


 


 


   田水張り棚田に月の一つづつ


            (多久市)松枝小夜子


 


 まもなく田植の日を迎える。田水が張られて、棚田の一つ一つに水が


 


行き渡りました。その水張の状況を見守りに行かれたのでしょう。


 


 棚田の全てに月が映っていたことでした。その田に月があれば、水張


 


が成功裏に行われたことで、田植もスタンバイとなりました。


 


           (2018.8.1)


 


 


 


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