418-2 もくもくと時を食して草茂る* [文芸(短歌・俳句) 時事]
随想コラム「目を光らせて」NO.418-2「朝日歌壇・朝日俳壇から」
俳壇 期間:2019.5.18~25
もくもくと時を食して草茂る*
*題目: 朝日新聞:2019.8.25
岡崎 実さん(西東京市)の入選作。
アオウ ヒコ
水彩画家 酒井 健の作品から:
180711 Purpurata.
朝日俳壇 2019.8.18
バラ 14
炎天や花鳥風月皆黙す
(川崎市)神村謙二
今年の夏の気温の上昇ぶりは凄まじく炎天の連続というに相応しい。
こう暑くなると人智の働く情操の花鳥風月への志向が萎えてしまう。
★八月が記憶の底で焦げてゐる
(山梨県市川三郷町)武藤 幹
★草笛の調べは沖へ摩文仁の碑
(霧島市) 秋野三歩
★遠花火眺めし如き選挙かな
(高崎市) 本田日出登
*そのなかに末期の声も蝉時雨
(善通寺市) 合田 豊
夏の盛り、樹木の中に蝉の合唱が今や盛り。だが、その蝉しぐれの中
には末期を迎える蝉の泣き聲も混じっている。
來し方の皆美しき祭りかな
(船橋市) 斉木直哉
ばら 15
免許返納仙人掌の花開く
(神奈川県大磯町) 冨松 裕
事故起こしてからでは遅いのでよ、とやんやと言われて免許返納しましたがな。
そしたらな、滅多に花を付けぬ仙人掌のとげの間から花が咲き出しましたよ。
★開戦に踊り八月十五日
(福島県伊達市) 佐藤 茂
朝顔や蔓は宇宙をさ迷へる
(東京都) 上田尾義博
ませ竹が添えてあれば、朝顔はそれに蔓を伸ばせばいい。それがないとなると、蔓は
大いに困り、宇宙の空間目指して彷徨うことに。
この虹を見にふるさとに來しと言ふ
(群馬県東吾妻町) 酒井大岳
五時半に新聞の来て蝉しぐれ
(長崎市) 濱口星火
早朝五時半に起きて玄関の新聞受けを見る。その時ちょうど朝の蝉時雨に出合いまし
たよ。いや待てよ、この日はおそらく日曜日、朝日俳壇の当落発表日。それを一刻も早く
知りたいゆえに、五時半の早起きをなさるのでは。
一切の鰻もありて昼の膳
(堺市) 山戸暁子
この句の一切はいっさいかひときれか。送り字のあるなしで意味ががらりと変わる好例
に出合った。確かに辞書には一切を、一切れと読ませるものもあるようだが、ここではひと
きれと読ませるのだろう。
朝日俳壇 2019.8.25
★父の骨なほジャングルに敗戦忌
(合末市) 坂田美代子
蝉鳴くや己が天命知るように
(東かがわ市) 桑島正樹
蝉が大声出して鳴きしきる。何回鳴けば我が使命は終わるのかを知っているようであり、
知らないようでもあり。
★いとけなき孫も合掌広島忌
(奈良市) 上田秋霜
★戦争を知らぬ古稀にも夏来たる
(長岡京市)寺嶋三郎
★天才の脳の標本原爆忌
(日立市)川越文鳥
かなかなの夕べの祈り風に乗る
(東かがわ市) 桑島正樹
カナカナが夏の夕べにひっそりと鳴くのは夏の終わりを告げるもの。風に
乗って遠くまで届きます
。
竹婦人われに抱かれる運命か
(川崎市)小関 新
竹婦人とはタケノコのこと。筍堀に出かけて大きからず、小いさからずの
格好の竹婦人を手にした。これを家に持って帰ることになる。おそらくわれ
に大切に抱かれて行くことだろう。どう料理するかはまだ先のこと。
バラ 17
★不思議なりし大人の嗚咽敗戦日
(東京都)金子文衛
★シベリアのことは語らず生身魂
(神戸市)池田雅かず
村十戸溺れるほどの大夕立
(奈良市)田村英一
テント出て露の匂ひに包まるる
(姫路市)西村正子
★いつまでも乾かぬ涙敗戦忌
(敦賀市)村中聖火
もくもくと時を食して草茂る
(西東京市)岡崎 実
夏草の茂りようは驚くばかり。時の過ぎ行くをもくもくと利用して草は茂
り行く。えっ、数日前に除草したばかりじゃないか。もう生えてきたの。
かないませんね。
★人人人柔らかな円原爆忌
(神戸市)豊原清明
★八月や鎮魂へはた闘魂へ
(福岡市)加藤秀則
★原爆忌過ぎれば次の原爆忌
(長崎市)中村昭夫
★
(2019.10.15)
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