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389.新緑の中行く赤いハイヒール* [文芸(短歌・俳句) 時事]

随想コラム「目を光らせて」NO.389「朝日歌壇・朝日俳壇から」      

          期間2018.63 624


 
    新緑の中行く赤いハイヒール


     *題 目: 朝日新聞2018.6.10 


                          (東京都)長谷川弥生さんの入選作。


                アオウ ヒコ          


1-DSC_0016.JPG     洋画家 青沼茜雲 の作品集から  52. 「丘の上の桜並木」

   フランス・サロン・ドトンヌ会員


      ・英国王立美術協会名誉会員


   ・ノルウエーノーベル財団認定作家     


   ・世界芸術遺産認定作家


   ・日本代表殿堂作家


 


 


          朝日歌壇・朝日俳壇から」


 


 朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最近の事象を鋭い表現で切り 


取った作品を選び筆者がコメントを付けています。コメントは文芸上の 


範を越えることがあります。作品の頭に印が付いた作品は、時の政権


が推進する前のめりの右傾化路線や平和憲法を無視し、国会の存在をな 


いがしろにするさまを放っておけぬとする市民の声であり叫びでありま


す。これらの作品は、ここでは個々の作品の文芸上の軽重を問うことな 


く、全作品を網羅、採録しています。これらの作品に対しては作者の真 


摯な叫びに読者の耳素直に従うべし、としてコメントはつけておりませ 


ん。 また、文中敬称は省略しています。(筆者)


 


       朝日俳壇 2018.6.03


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  納骨の列行く日傘遅れがち 


              横浜市) 小川みゆき


 


 暑い夏を乗り切れず、逝去した人の近親者たちが納骨に参加すべく歩いて


いる。バスで納骨場へ到着して、会葬の場へ向かう列であろう。急ぐ必要はな 


く、できれば、その場の会葬を少しでも先に延ばしたい気持ちもある。折からの 


強い陽射しとあって日傘をさした人の歩みはのろい。


 


 


  薔薇の園満ちたる彩に溺れけり


                (大阪市) 友井正明


 


 広大な面積を持つ薔薇園に今年も訪れた人。幸い、折からの旬とあって、ど


こもかしこも由緒ある薔薇たちのとりどりの彩が姸を競っている。思わず眼を細 


めて薔薇園の全景を目に入れる。そこに居た私は薔薇の彩と香りに噎せて溺


れるがごとしでしたね。


 


    母の日を祝福もせずに逝かせたり


                          門真市) 田中七三男


 


 巡ってきていた母の日を前にしていた。毎年、何かのお祝いをしていたので、


今年も、と思いつつ、「お母さん、母の日おめでとう」という日を前にして母は亡


くなった。こんなことなら、少し前倒ししてでもお祝いをしてあげればよかった。


 


 


   意志強き妻に連れ添ひ大夏木 


                         甲府市) 中村 彰


 


 優柔不断で、何かと決断がつかない優男の私。気丈でばりばり取り仕切る私 


 


の妻。彼女がいなければ、とうてい我が家は立ち行かなかった。つくづくありが


 


とう。感謝感謝の日々を送っていますよ。


  


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  柿若葉百歳の母うすみどり


                         東京都  三角逸郎


 


 柿の木に若葉が兆す頃の若みどりの優しくも美しい柿若葉。わが家の百歳の


母にもこの若葉の色が移り映えて、元気を戴いたようです。


 


    


  薫風や若き遺影の七回忌  


                          横浜市  高野 茂


 


 若葉の萌ゆるころ、その家では祭壇に若い遺影が置かれ、七回忌が行われ 


ている。「まだ若かったんだね」「生きていれば、今いくつかね?」「惜しいことを


したもんだよ」 会葬の人々が口々に故人を悼む姿を薫風が優しく吹き抜ける。


                  


   嬉野と八女の走り茶になきゴール


                        筑後市)  近藤史紀


 


 お茶の産地、またはその茶の愛好者同士が、「このお茶が一番」と言いあう姿 


がどこにでもある。関東では静岡茶、狭山茶が有名だが、九州の福岡の親戚か


らは「お茶は八女茶か狭山茶ね。新茶が出たら狭山茶送って!」と連絡が来る


から、日本一は狭山茶か。地元の産物を慈しむ心はどこにでも、だれにでも。


 


  薔薇園を今年は逆に回りけり


                       玉野市)  加門美昭


 


 去年も来たけど、今年も来たよなあ。去年と同じじゃ芸がないから今


年は逆に回るとしよう。あれ、こんな薔薇があったかな、あ、俺と同じ


趣向で回る人がいる。結構居る。来年はどうするつもりかな。などと余


計な心配をしながら見事な薔薇を楽しむ。いいご趣味をお持ちですな。


 


    朝日俳壇 2018.6.10


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    先生の一人が転ぶ田植かな


                静岡市) 松村史基


 今は殆どの田植は自動田植機で行われるから、人が田の代に立ち入っ 


て腰を屈めて苗一本づつ挿して行く田植は、ごく限られたものになって 


いるようだ。ごくごく狭い代か、棚田か学校行事で使う水田等である。 


 ここはこういう労働に不慣れな学校の先生が田植えに参加されている


うち、よろけて転ぶ姿があり、その姿が皆に大受けしたのであろう。


 


   余り苗にも育たむとする心


                      鹿児島市) 青野迦葉


 


 田植に必要な苗の本数を苗代で作るのだが、田植え作業の時に苗の本 


数が不足すると絶対に困るので、やや多めに作るようだ。田植えを終え 


て、植える代がない苗を(余り苗)というらしいが、すぐ捨てずにおく


と「私も植えて下さいな。育ちたいのです」と生気を見せるのだ。


              


   葦若葉一竿と鯉せめぎ合ふ


              北茨城市) 坂佐井光弘


 


 河川の岸辺に葦の芽が伸び若葉となる頃、釣り師の竿に鯉がかかり 


暫らくはバチャバチャと双方のせめぎあいが続く。作者は釣り師か 


者か


   ひるがへるたびに光となる若葉


                     (合志市)坂田美佐子


 


 木々の若葉がみずみずしく育つ初夏の頃、少し遠くから風に翻る樹


を観ている。若葉が風に翻るたびに光になって私の眼に届く。


 


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   骨壺をはみ出す頑固五月富士


             (川口市)松島ひろかず                


 五月富士の秀麗な姿を見ながら、今は亡き人を思っている。ほんとに 


あいつ、すんなりと骨壺に収まって鎮もるやつじゃなかったなあ。言


出したら聞かない、骨壺からはみ出してくるような頑固者だったよ。


                                            トルストイ伏せてごきぶり叩きけり  


             (熊本市) 寺崎久美子 


 読書していました。トルストイを。そこへするするとゴキチャン現る


です。先生にあられもない姿を見せちゃならずとして、まずは御本を机


に伏せて、次にゴキブリ叩きではっしと打ちのめしました。これだと 


の素性は知れないでしょう。よかった。


   改悛の涙褪せたり夏兆す                


         船橋市) 斉木直哉 


 あの方の逝去を機に、わが身の至らなさを改め、心を入れかえるため


に滂沱と流した涙もいつの間にか褪せて渇き、そして今や新しい夏に入


ろうとしている。


 


   美しき名前の薔薇に一会あり


             (長野市縣 典子


 薔薇には名前がついている。美しい名前であることが多い。この美し 


い名前の薔薇を覚えておきましょう。暫らくじいっと見詰めておりまし


た。忘れませんよ、あなたのお名前。なんてお美しい。


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    髪洗ふ看るべき母のなき夕べ                        


            東京都) 大澤都志子 


 いつもは母の髪を洗うのが日常だった。だが、今は母はいない。よう


やくこの夕べに私は自分の髪を洗っている。解放された思いがいっぱい         


に広がる。


 


 


    薔薇の香に溺れてみたく目を瞑る


            横浜市) 小川龍雄 


 美しい形と華やかな色彩で目を魅く薔薇のすべてがかぐわしい香りを


持っているかと言うと必ずしもそうではない。殆ど香りを持たぬ薔薇も


数多い。平均して言えば、薔薇はうっすらと香るようだ。芯から香り


楽しみたいのであれば、この作者みたいに薔薇に鼻を近づけ、香りを


ぐのがいい。大きな薔薇園に分け入って薔薇の香につつまれ、漂って 


るな、と感じるときも、目を瞑る手がある。会場全体が薔薇の香りに


まれていることを改めて識るだろう。


   新緑の中ゆく赤いハイヒール


         (東京都) 長谷川弥生               


 新緑のある日、こうしたモダンな装りをして作者のお出ましがあった 


のかもしれない。それはそれで良しとして、この句が与えるイメージは


薫風の中、さらりとした爽快感を与えて已まない。


 白の上下の膝までのモダンな袍衣、黒ベルベットのベルト、小さく束


         


ねて纏められた黒髪、口唇には思いっきり引かれた赤の紅。爽やかに突


 


き出た白いしなやかな二の腕と二本の脚。その足には赤いハイヒール 


 


ある。おや、これはどこかで見た美しい若い女性の姿だ。そうだ、マ


 


スが描いた、若い女性の夏姿の典型ではないか。なんとも闊達で魅力的


 


な女 を髣髴とさせる。


         


                     (2018.8.01)


 


                


 


        つづく → NO.389-2 


 


 


 


 


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