随想コラム 「目を光らせて」NO.444「朝日歌壇・朝日俳壇から」 [文芸(短歌・俳句) 時事]
随想コラム「目を光らせて」NO.444「朝日歌壇・朝日俳壇から」
「コロナを詠んだ歌人たち」
歌壇 期間:2021.3.7~14
三回戦 豪州の蝶 顔に来て
なおみはやさしく空に放てり*
*題 目: 朝日新聞: 2021.3.14 朝刊
(薩摩川内市)川野雄一さん入選作。
アオウ ヒコ
「朝日歌壇・朝日俳壇から」
このブログは朝日新聞の「歌壇・俳壇」の入選作の中から、最
近の事象を鋭い表現で切り取った作品を「歌壇」「俳壇」交互に
精選し、必要に応じて筆者がコメントを付けています。コメント
は文芸上の範を越えることがあります。
作品の頭に★印を付けた作品は時の政権が推進する前のめりの
右傾化路線や平和憲法を無視し国会の存在をないがしろにするさ
まを放置しておけぬとする市民の声であり、この悪弊を矯めたい
とする意思表示であるとしてきました。
これらの作品はここでは個々の作品の文芸上の軽重を問うこと
なく、全ての作品を本稿に採録してきました。
令和二年一月、突如として地球に住む人類を無差別に襲ったコ
ロナウィルスは手を変え品を変えて、世界各地でその猖獗の勢い
は止まることなく、ひとの命を損ない、これまで営々として人類
が築いた世界の歴史と文化を根底から覆す様相を呈しています。
朝日新聞の読者たち、とりわけ歌壇・俳壇を支える歌人たちは
この新型コロナウィルスの動きに目を光らせ、自らの感性で人と
しての声を上げ続けています。このブログではこの動きを「コロ
ナを詠んだ歌人たち」として捉え、作品の頭に▼印を付けて識別
し(・印は純粋な短歌佳作として識別)この疫病がいかに人類
社会の日常に深刻な影響を及ぼしているかを見究め、令和2年の
ウィルス禍が人類社会に及ぼしてゆく変化を知るよすがにしたい
としています。 文中敬称は省略しています。(筆者)
朝日歌壇 2021.3.07
▼夜勤から帰り食事も忙しく爆睡に入る介護士の娘
(秩父市)新井竹代
▼今ならば退職金の払へるとふ「八代目川甚」苦渋の閉店
(国立市)高嶋 肇
▼仕事なく家賃払えぬ身となりぬ路上生活送る寒さよ
(調布市)豊 宣光
▼玄関の馬の置物両耳がマスク掛けとなり一年が来る
(神戸市)石川佳世子
▼相方とはアクリル板で隔てられ調子が出ないドツキ漫才
(西海市)前田一揆
▼ひとことも喋らず給食たべるんよ仕方ないねと小2が言った
(二宮市)佐竹由利子
▼書店から消えた海外ガイド本空っぽの棚に表示残して
(札幌市)はづきしおり
▼疫病(えやみ)の世 間なく終わると梅の花白妙ふやす紅ふやす
(我孫子市)松村幸一
▼熱々の大鍋揺らし根菜がぐつぐつ踊る主夫のけんちん
(結城市)福田佳世子
・一輌の気動車ゆくはバスのごと鄙びてやさし早春の野辺
(大分市)岩永知子
▼ホームレス雇用破壊の生き証人重き荷抱き公園に寝る
(横須賀市)梅田悦子
▼ウィルスを通さぬ袋に入れられて最期の別れも叶わぬ
死者たち (西宮市)東谷節子
▼黒人のワクチン接種は白人の一割にすら満たぬアメリカ
(観音寺市)篠原俊則
▼コロナ禍といふ休戦の最中にも武器を売る国武器を買ふ
国 (村上市)鈴木正芳
▼外食はできず食材さえ飼えぬ夜幾度ぞ保健所勤務
(東京都)貴山浩美
▼わが役目終わりて路に捨て置かるかの人護り耐えた
マスクが (柏市)加藤安博
・施設がいやなのではなくて施設にいる自分が嫌なのだろう
母は (千葉市)高橋好美
★その場では笑いをとって終わってた百二十一位この国の
会議 (相模原市)石井裕乃
▼「百人」に戦慄せしが一年後「千人」とふに安堵の怖さ
(さいたま市)大浦 健
▼厄除けの呪文のように唱えているファイザーモデルナアストラ
ゼネカ (大阪市)鹿戸仁美
朝日歌壇 2021.3.14
・宍道湖にシスレーの雲浮かぶ日は信号待ちの車窓の至福
(出雲市)塩田直也
▼寿司買って帰りぬワクチン一回目五十パーセントは効いてる気
がして (アメリカ)大竹幾久子
▼エッセンシャルワーカーの響き明るくて報いられない苦労を隠
す (葛城市)林 増穂
・降る雪のしずけく地蔵いて健康な四肢呉れたり夢に
(和泉市)長尾幹也
▼マスクせず怒鳴る利用者去ったあと非正規司書のかすかな吐
息 (東京都)佐藤研資
▼人形に話すがごときリモートの面会続く施設のロビー
(京丹後市)赤岩邦子
▼コロナ逐ひ払ふ「白沢」は徳のある為政者の治下にのみ現る
とふ (京都市)森谷弘志
「白沢」:中国で想像上の神獣の名。よく人語を話し有徳な王者の治世に出現
するという(広辞苑)
▼マスクして眼鏡に帽子かぶりても齢かくせず席ゆずらるる
(福岡市)藤掛博子
・水ぬるむ春の琵琶湖に踏み入れた追いさでの網に稚鮎きらめく
(大津市)近藤克己
◎三回戦豪州の蝶顔に来てなおみはやさしく空に放てり
(薩摩川内市)川野雄一
これは前回世界テニスの女子の部で大坂なおみがプレイ中の出来事。めったにないできごとだった。一匹の中くらいの蝶がどこからかヒラヒラと飛んできて、プレイ中のなおみの顔にじゃれついた。真剣勝負の最中である。観衆はなおみがどうするか固唾をのんだ。ラケットの網でバサッと退治する手もあった。なおみは顔の周りに手をやって、捕まえようとしたが、これには失敗した。にこにこ笑いながら、「試合中だからね」と優しく払いのけたことだ。観衆は沸いた。なおみの優しさに共感した。彼女はこの試合に勝利した。
★会長の女性蔑視をあげつらう吾を笑いし家内の目線
(豊橋市)熊本直弘
★
つづく → NO.444-2
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