目を光らせて NO.446 まだあかい燠つまみ入れふたをする心の隅におく火消し壺 [文芸(短歌・俳句)時事]
随想コラム「目を光らせて」NO.446「朝日歌壇・朝日俳壇から」
「コロナを詠んだ歌人たち」
歌壇 期間:2021.5. 2~30
まだあかい燠つまみ入れふたをする
こころのすみにおく火消し壺*
*題 目: 朝日新聞: 2021.5.2 朝刊 (新潟市)太田千鶴子さん入選作
アオウ ヒコ
「朝日歌壇・朝日俳壇から」 (▼コロナを詠んだ歌人たち)
このブログは朝日新聞の「歌壇・俳壇」の入選作の中から最近の事象を鋭い表現で
切り取った作品を「歌壇」「俳壇」交互に精選し、必要に応じて筆者がコメントを付
けています。コメントは文芸上の範を越えることがあります。
作品の頭に★印を付けた作品は時の政権が推進する、前のめりの右傾化路線や平和
憲法を無視し国会の存在をないがしろにするさまを放置しておけぬとする市民の声で
あり、この悪弊を矯めたいとする意思表示であるとしてきました。これらの作品はこ
こでは個々の作品の文芸上の軽重を問うことなく、全ての作品を本稿に採録してきま
した。
令和二年一月、突如として地球に住む人類を無差別に襲ったコロナウィルスは手を
変え品を変えて拡がり、世界各地でその猖獗の勢いは止まることなく、多数のひとの
命を奪い続け、これまで営々として人類が築いてきた世界の歴史と文化を根底から覆
す様相を呈しています。
朝日新聞の読者たち、とりわけ歌壇・俳壇を支える歌人たちはこの新型コロナウィ
ルスの動きに目を光らせ、自らの感性で人としての声を上げ続けています。このブロ
グではこの動きを「コロナを詠んだ歌人たち」として捉え、作品の頭に▼印を付けて
これを識別し(・印は純粋な短歌佳作として峻別 )この疫病がいかに人類社会の日
常に深刻な影響を及ぼしているかを見究め、令和2年のウィルス禍が人類社会に及ぼ
してゆく変化を知るよすがにしたいとしています。文中敬称は省略しています(筆者)
朝日歌壇 2021.5.2
▼ワクチンも女性の社会進出も「発展途上国」の我が国
(藤沢市)朝広彰夫
▼世界から観客は來ぬ五輪だが見てほしかった帰還困難地
(南相馬市)佐藤隆貴
▼体温を測りて座る食堂の春はひっそりひそひそ話
(みどり市)植木秀夫
▼コロナ対応に追われし老医師の帰宅待ちわぶ肉じゃがの鍋
(周南市)高島由実
▼テレワークしている隣に机置き八歳がする漢字練習
(八王子市)井上紀子
・コックスの声に漕ぎ手ら勇み立ちエイト出てゆく春潮越えて
(舞鶴市)吉富憲治
・セリ、ナズナ、ノビル、モチグサ、フキノトウ 土手で摘めてた春が懐かし
(福島市)安斎真貴子
★風が吹く雨降る 太陽照らしてる 誰も未だに住めない町に
(南相馬市)佐藤隆貴
▼コロナ禍は「さよなら」のない死別だと新聞で読み妻を見つめる
(亀岡市)葛西 進
▼いつ終わるコロナの世かとうつつなく仰ぐ空からあっ初つばめ
(我孫子市)松村幸一
▼残像のように昨日の我が行くギブスの我の数メートル先
(奈良市)山添聖子
・聴こえるかお前が好きなあの頃の軽いロックが出棺の曲
(神戸市)松本淳一
▼新しき駅前見せて福島の影を見せない聖火のリレー
(石川県)瀧上裕幸
▼聖火リレー「復興五輪」を掲げるも住民ゼロの被災地通らず
(大津市)隈元直子
◎まだあかい燠つまみ入れふたをするこころのすみにおく火消し壺
(新潟市)太田千鶴子
・雪の田に融雪剤のまかれいて空霞たり大雪山の春
(北海道)高井勝巳
▼クリスマスイブの宅配ビザに似て何時になったら來るかワクチン
(川崎市)小島 敦
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朝日歌壇 2021.5.9
▼クラス替えはじめましての友達に敬語で話す新しい自分
(東京都)臼井 茂
▼オンライン授業の続くキャンパスにバーチャルの顔が跋扈している
(甲府市)高瀬孝人
▼ミートパイ食べて始まる新学期いっぱい笑いたい話したい
(富山市)松田わこ
▼タテカン無き百万遍の交差点うつむきながら学生通る
(京都市)武本保彦
▼花柄のブラウスを着て家を出る欠席続く生徒に会う日
(岸和田市)西村 史
▼共感と独創性の鬩ぎあいみんなの「いいね」わたしの「いいな」
(富士市)村松敦視
▼検温し消毒マスクディスタンスすべて整え楽譜を開く
(静岡市)増田町子
・跡形なく仮説も消えてかの人らいまはいずこや茫々の春
(福島市)美原凍子
★二キロなる夜の森のさくら立ち入りは線量ゆえに八〇〇メートル
(下野市)若島安子
▼年甲斐もなく千字文書かんとす池江選手に力貰いて
(橿原市)藤麻龍二
▼密避けて母とも会えぬコロナ禍に密をつくりて聖火は走る
(稲沢市)松岡さよ子
・出来ぬこと少しずつ増え気がつけば天声人語ルーペもて読む
(川越市)吉川清子
・大柚子を二つ届ける下ごころ一月後には砂糖煮が来る
(一宮市)池野武行
・春うらら浮かれた色の頬紅を塗ってマスクで半分隠す
(三条市)高橋梨穂子
・人間の世が疫禍であろうがなかろうが鮠はⅤ字に群れて水切る
(舞鶴市)吉富憲治
▼筆談し敬語は字数が多いなと思いながらも敬語を使う
(川崎市)川上美須紀
・優勝のガッツポーズをする腕のしなやかなりし瑠花子の翼
(札幌市)住吉和歌子
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